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名古屋地方裁判所岡崎支部 昭和60年(ワ)304号 判決 1986年7月21日

原告

中西泰彰

右訴訟代理人弁護士

鈴木顯蔵

被告

石川淳

被告

石川耕春

右両名訴訟代理人弁護士

稲生紀

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金一〇九四万五六三七円及びこれに対する昭和五八年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金三七二五万七九一九円及びこれに対する昭和五八年八月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求原因

一  交通事故の発生

1  日時  昭和五八年八月六日午前一時二〇分頃

2  場所  愛知県岡崎市戸崎町字東山四

3  被告車輛  被告石川淳(以下、被告淳という。)運転の普通乗用自動車(三河五八み二六六七)

4  原告車輛  原告運転の普通乗用自動車(三河五八ひ八三九)

5  態様  被告車輛が、原告車輛走行の反対車線に飛び出したために正面衝突

二  本件事故による原告の負傷とその治療経過及び後遺障害

1  傷害

右大腿骨開放骨折、右下腿骨骨折、左尺骨遠位端開放性骨折、左骨盤骨折、顔面、両前腕裂創

2  治療経過

(一) 昭和五八年八月六日から同年一一月一五日まで

入院  市立岡崎病院

(二) 昭和五八年一一月一六日から昭和五九年五月一八日まで

通院  同病院

(三) 昭和五九年五月一九日から同年同月二八日まで

入院  同病院

(四) 昭和五九年五月二九日から同年八月一一日まで

通院  同病院

入院計一一二日間 通院二五九日間(内実治療日数一三六日)

3  後遺障害

右足の二関節に障害が残り、正坐、胡坐が困難となり、一時間も立つて仕事を続けることができず、走ることもできない。知覚も鈍麻し、歩行時には痛みが走る等、日常の生活にも支障を来たしている。(一二級七号、一〇級一一号により九級の事前認定)

三  帰責事由

1  被告淳

同被告は、自車を反対車線に飛び出すことのないように運転する義務があるにもかかわらず、居眼りをしてこれを怠つた過失がある。

2  被告耕春

同被告は、被告車輛の所有者として、これを運行の用に供していた者である。

四  損害

1  労働能力減損による逸失利益二七〇七万〇八三七円

原告は父親の所有する建物内において、喫茶店(スナック併業)を経営しており、右喫茶店から得られる利益は年間九〇一万六九一五円である。

但し、税務上は父親から給料を得ていることになつており、昭和五八年一月当時の月給は二四万五〇〇〇円であり、同年八月からは二六万円、昭和五九年一月からは二七万五〇〇〇円、賞与はいずれも年四五万円の約定であつた。

そして、前記後遺障害による労働能力喪失率は九級で三五パーセント、症状固定当時原告は三〇歳であつたから就労可能年数は六七歳までの三七年間(ホフマン係数二〇・七二五四)である。

2  慰謝料 六八〇万円

(一) 傷害分 一八〇万円

入院一一二日 通院二五九日

(二) 後遺障害分 五〇〇万円

3  弁護士費用 三三八万七〇八二円

(一) 着手金 一六九万三五四一円

(二) 報酬 一六九万三五四一円

4  計 三七二五万七九一九円

五  むすび

よつて、原告は、被告らに対し、連帯して、本件損害金三七二五万七九一九円及びこれに対する事故の日である昭和五八年八月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する認否

一  請求原因一項(交通事故の発生)の事実は認める。

二  同二項(本件事故による原告の負傷とその治療経過及び後遺障害)の事実は不知、その余の事実は認める。

三  同三項(帰責事由)の事実は認める。

四  同四項(損害)の事実は否認する。

原告は、本件事故当時、父黄良次郎が経営する岡崎市明大寺本町四丁目三五番地所在のマイアミ会館内のスナックの店長として働き、昭和五七年には年間三一〇万円を得ていたものである。そして、昭和五八年一月から七月までは、毎月二四万五〇〇〇円程度の給料等を受けていたものと思われる。

第四  抗弁

原告は自動車損害損償責任保険から後遺障害保険金五二二万円(九級)の支払を受けた。

第五  抗弁に対する認否

認める。

第六  証拠関係<省略>

理由

一交通事故の発生

当事者間に争いがない。

二本件事故による原告の負傷とその治療経過及び後遺障害

1  傷害

<証拠>により、請求原因事実をすべて認めることができ、右認定を妨げる証拠はない。

2  治療経過

当事者間に争いがない。

3  後遺障害

<証拠>により次のとおり認めることができ、この認定を妨げる証拠はない。すなわち、

主訴または自覚症状として

両手、手背のしびれ、知覚鈍麻、右足関節の歩行時痛、跛行、正坐、胡坐、蹲居困難、走行不能、右膝関節、足関節の動きが悪いということがあり、他覚所見として、

顔面(右前額部に縦に四センチメートル、おとがい部に四・五センチメートル)の創瘢痕、左前腕末梢に一六センチメートル、前腕掌側に四・五センチメートル及び五センチメートル、右前腕背側に七×二センチメートル及び四センチメートルから〇・五センチメートルまでの瘢痕無数、握力右四六キログラム、左三八キログラム、大腿周径右四四・六センチメートル、左四六・五センチメートルと右肢筋縮、右下肢運動制限

膝 伸展 自動 右マイナス一〇度 左〇度

他動 右マイナス一〇度 左〇度

屈曲 自動 右一二〇度 左一四五度

他動 右一三〇度 左一五〇度

足 背屈 自動 右〇度 左二五度

他動 右〇度 左二五度

底屈 自動 右四五度 左六〇度

他動 右四五度 左六〇度

右足関節うち、そとがえしがほとんど不能ということがある。

以上により九級と認める。

三帰責事由

当事者間に争いがない。

四損害

1  労働能力減損による逸失利益一〇〇〇万五六三七円

<証拠>によれば、原告は父黄良次郎の経営するスナックで稼働し、昭和五七年中の給与所得として年間三一〇万円を得ていたことを認めることができる。原告は右スナックの実質上の経営者として年間九〇一万六九一五円の所得があつた旨主張し、証人黄良次郎原告本人は右趣旨に副う供述をするが、たやすく措信できない。そもそも、原告はその主張自体から明らかなように、一方の国家機関である税務署長に対しては原告の所得は給与所得として右金額を申告しておきながら、他方の国家機関である裁判所に対しては、右申告以上の所得があつたと主張してその救済を求めているものであつて、極めて信義に反したものであるといわなければならない。したがつて、このような主張が許されるとしても、右主張に副う証拠の信憑性の検討については慎重になさなければならないのであつて、本件全証拠によるも、原告の右主張事実を確認できないものである。たとい、原告名義で、毎月、右申告額と同程度の、預金、保険料、銀行借入金返済の出捐があつたとしても、税務署長に対する申告形態が右のようなものである以上、右毎月の出捐は、父から原告に対する贈与があつたとみることもでき、直ちにこれを原告に所得があつたことの裏付証拠として採用することができないものである。

そして、原告は、前記後遺障害の内容、程度からすれば、症状固定時から五年間は三五パーセント程度、その後一〇年間は二〇パーセント程度、その後一〇年間は一〇パーセント程度、その後は五パーセント程度労働能力を喪失したと認めるのが相当である。

また、<証拠>によれば、症状固定時は昭和五九年八月一一日であり、原告は当時三〇歳であつたことが認められ、六七歳まで就労可能であるとして、ホフマン方式(年毎複式)により原告の労働能力減損による逸失利益を算定すると頭書の金員となる。

三一〇万円×〇・三五×四・三二九四=四六九万七三九九円

三一〇万円×〇・二〇×(一〇・三七九六−四・三二九四)=三七五万一一二四円

三一〇万円×〇・一×(一四・〇九三九−一〇・三七九六)=一一五万一四三三円

三一〇万円×〇・〇五×(一六・七一一二−一四・〇九三九)=四〇万五六八一円

四六九万七三九九円+三七五万一一二四円+一一五万一四三三円+四〇万五六八一円=一〇〇〇万五六三七円

2  慰謝料 五四六万円

(一)  傷害分 一八〇万円

前示の治療経過からすると、頭書の金員を相当と認める。

(二)  後遺障害分 三六六万円

前示の後遺障害により頭書の金員を相当と認める。

3  小計 一五四六万五六三七円

4  損害の填補

原告が自動車損害賠償責任保険から五二二万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、右一五二六万五六三七円からこれを差引くと一〇二四万五六三七円となる。

5  弁護士費用 七〇万円

被告らが以上の損害金を任意に弁済しないため余儀なく弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起、追行を委任したこと及び相当額の報酬費用の支払を約したことは本件記録及び弁論の全趣旨に照らして明らかである。そして本件訴訟の難易、認容額、中間利息、本件和解の席上では被告ら代理人において、本件認容額程度の支払には応じる旨述べていたこと等諸般の事情を総合考慮して、頭書の金員を相当と認める。

6  合計 一〇九四万五六三七円

五むすび

以上のとおりであるから、被告らは、原告に対し、連帯して本件損害金一〇九四万五六三七円及びこれに対する事故発生の翌日である昭和五八年八月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告の本訴請求は右認定の限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項但書を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官大津卓也)

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